あなたに捧げる不機嫌な口付け
困ったように下がる眉。

真面目そうな、校則通りに短く整えられた黒髪。

端々に見える丁寧さ。

芯が通った、猫背になんてならない伸びた背筋。

綺麗な制服。優しい口調。


夢を見て、隣に立つのを想像して、だから、合わないと確信した。


「ただね、彼が私を見る目は、少し綺麗すぎる」


恥ずかしさと多くの期待を込めた目は、向き合うほどに綺麗だった。


「顔形のことじゃなくて、なんて言うか……目が澄みすぎてるって言うか」


綺麗なものは好き。

綺麗なものは好きだ。


でも彼の綺麗さは、私の手に負えるほど優しくなかった。


私から見ると、この年にしては少し異様なくらい幼い綺麗さだった。


私と彼ではあまりに考え方が違いすぎる。


彼は世界を信じている。


愛しいと、無条件に信じている。


何かをしたら感謝が返ってくると教わって、信じて。


出会う大抵の人はいい人で。


自分がされて嫌なことは相手にもしないようにしなさいという、子ども向けにいろいろを省略した小さい頃の教えをそのまま信じて、自分がされて嬉しいことは相手もされて嬉しいことだと変換しているような。


だから人気のない教室に呼び出して、二人きりで告白をした。
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