あなたに捧げる不機嫌な口付け
あの男子は、打算でものごとを割り切ったりしないんだろう。


真っ赤に染まった彼の顔は、とてもいい人そうで、親しみやすくて、捻くれたところなんて見受けられない、優しい穏やかさに満ちていた。


下がった目じりがひどく温かかった。


だから一緒にいるとおそらく、私が疲れる。


私が疲れて私から別れを切り出す。


「祐里恵」


溜め息をこぼした私の髪をすく、大きな手。諏訪さんの手。


心地よさに任せて体を預けると、もたれられた諏訪さんは文句も言わずに抱きしめる。


あやすみたいなリズムが、今は殊更心地よかった。


「……俺もさ」


ぽつりと諏訪さんは話をした。


「なんとなく分かるけど、そういう目は苦手だよ」


嫌いだ、じゃないのが、私の心をすくう。


「……うん。苦手なだけなの。嫌いじゃないの」


私も、あまりに綺麗な目が、触発されて勝手に警戒する自分が、苦手なだけだ。
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