あなたに捧げる不機嫌な口付け
泣き疲れた小さな子どもに似た幼さで、素直に本音がもれる。


諏訪さんは静かに相槌を打った。


「だから余計にたちが悪い、だろ」

「……うん」


そうなのだ。嫌いにはなれない。


いっそのこと嫌な性格であればまだ救われるのに、そういうどこか純真すぎるきらいがある人に限って、いい人で。


嫌なところを直すから教えて、なんて言って、自分が駄目な理由を聞く。


私の考え方に触れたいのだ、なんて、真摯な瞳を寄越す。


その度に私は逃げ腰で固まるしかない。


あなたが綺麗すぎるからだなんて、あまりに私的で理不尽すぎる理由を言えるわけがない。


結局、反射した綺麗さであの男子が映し出したのは私の醜さで、惨めに膝を抱えてうなだれることしか、疲れた私には残っていない。


綺麗なものは好き。


だから苦しくて、だけど好き。


「手の内を全部さらけ出して、丸ごと私にくれようとしてるみたいで……」


不安になる。怖くなる。


私では釣り合わないと逃げたくなる。


自分の弱さも歪さも、汚さも、知っているから。


差し出さなくていいものを簡単に他人に預けるから。


受け取れなくて、受け取ったら最後、引きずり込まれそうで、それに怯えて落としそうで困る。


「何もかも、こっちに傾倒する気がするんだよなー」

「うん」


壊れものを絶対に安全に保管する方法なんて知らない。


輝いてそこにあると存在を主張するものを遠巻きに眺めるすべなんて知らない。


無垢であればあるほど、純粋であればあるだけ、無防備すぎて、こちらからは迂闊に近寄れない。
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