あなたに捧げる不機嫌な口付け
言葉を学んで状況に合わせてきちんと選ばないと、誠実さを量りにかけられ始めたのはいつだっただろうか。


単なる感想が皮肉に成り代わることを知ったのは、いつだっただろうか。


素直さは検討の甘さ、ある種の浅はかさや軽薄な思想に限りなく近い場合がある。


あるがまま、そのままを受け取って、ものごとを深く見ようとしない態度とほとんど近似している。


見えるままに見る素直さが、物を正しく見ることにはならない。


限られた場所から当事者として見るのと、広い視野に立って客観的に見るのとでは物の見え方が全く違う。


無垢にして愚かな哀れさに彼は近いように思われる。


荒波に揉まれたら、溺れてしまいそうに。折れてしまいそうに。


人によって見え方が違うから、後からつけ足せば何とでも言い訳できる。

そんな周知の事実さえ、無知故の純粋さでいまだ知らないみたいに。


「無垢な人って綺麗な分だけ染まりやすいでしょ」


子どもの考え方は親に似るらしい。

離れ離れになった兄弟だって、育て親の影響で全然違う考え方になる。


すごく悪い言い方になるけど、真っさらで素直な、言われたことを調べたり疑ったりしないで丸ごと信じてしまう綺麗な人は、ほとんど子どもに近い気がする。


「そうだな。ちょっと盲目的な部分もあるよな」


黙っていた諏訪さんは、ゆっくりゆっくり首肯した。


すがる手を、強める。
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