あなたに捧げる不機嫌な口付け
「泥を被れば簡単に泥に染まってしまうのが、私は怖いんだと思う」


私はかなり捻くれているし、万人受けするタイプでもないし、嫌われやすいし、何でも正しいことが分かるわけじゃない。


盲目的に信じ込まれても、きっとその人を不利にしてしまうだけだ。


とてもじゃないけど、怖くてそばにいられない。


責任が持てないくせに、気まぐれでいい加減に私色に染めたくはない。


その点諏訪さんは安心できる。


地色が強いから、私色には染まらない。


染まるような簡単な人なら、私はこうして会っていない。


染まらなくて、親しみやすくて、話が合うから、そばにいる。


「それに私はもっと、こう……」


どもる。


「ん」

「……上手く言えないけど……」

「ん」


正しい表現は見つからないけど、近しい表現はおそらくこれだ。


「私はもっと、迷ったり悩んだりしている人の方がいい」


綺麗なことばかりではないから。


誰だって何かしら不幸なことも嫌なことも損なことも、見聞きするはずだから。


この年になってまで全員の優しさを信じている人は、おそらく相容れないだろう。


捻くれた私には上手く一緒にいられない。


きっと優しすぎて、息が詰まる。
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