あなたに捧げる不機嫌な口付け

呼んでよ、祐里恵。

どうしてこうなった。


待ち合わせ場所を動くわけにもいかなくて、どうしようもなく呆然としながら、私は無表情に前を見た。


「ねーおねーさん、俺らとお茶しようよ」

「…………」


だから、どうしてこうなった。




休日。

お昼を奢ると誘われたので、ただで食べられるなんてお得だなと安請け合いして、諏訪さんと待ち合わせていたんだけど。


腕時計を確認している隙に、ぐるりと四人組の男性に取り囲まれていた。


皆さん顔も体格も厳ついというか怖いというか、明らかに不審というか。

多分、大学生か社会人だけど、社会人がナンパするにしては私は若く見えると思うから、釣り合いを考えて大学生かな。

社会人なら結構柵があるだろうし、若くないと怖くて、誰が見ているかも分からないのに、こんな街中でいきなりナンパはあんまりしないだろう。


とりあえず、あまりお近づきになりたくないのは確かだった。


逃げ場がないのも困る。


ぱっと視線を逸らしてスマホをいじった。


何も話さないで、できるだけ忙しそうな感じで流すのが一番いい。


下卑た笑い声に苛々する。


なんでまだ来ないの、諏訪さんの馬鹿。


ほんと馬鹿。
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