あなたに捧げる不機嫌な口付け
「なんで固まってるの」


あそこは俺もだよ、とか言う場面だったでしょうよ。


気持ち悪いのは謝るけど、演技はして欲しかった。


不満な私に、諏訪さんは瞬きを数回。


「あーうん、ちょっと噛み締めてた」


気持ち悪さを?


意味が分からない。さすが変態。


「というか何、俺のこと好き? って。何聞いてるの、馬鹿なの阿呆なの何なの」

「……祐里恵」

「何」

「俺のこと、」

「普通」

「……ですよねー」


うなだれてはいるけど、まあ、まともに動き出したからいいや。


とりあえず、さっさと歩く。


一刻も早くあの場から離れたかった。


「でも祐里恵、間に合ったからいいけど、悪い人にはついてっちゃ駄目だよ」


元気を回復した諏訪さんが、悪戯っぽくよく分からないことをのたまった。


相変わらず諏訪さん節はおかしい。


「間に合ってない。それに悪い人は自分でしょ」


子どもにする注意をされてジト目を向けた私は正しいと思う。


「じゃあ祐里恵は悪い子だ」

「はいはい」


変な理論を展開する諏訪さんは流すことにした。
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