あなたに捧げる不機嫌な口付け
「上手く逃げられてよかったな」

「そう?」


あれは果たして上手くの範疇に入るのか。強引って言うんじゃないのかな。


懐疑的な私に諏訪さんは物騒な例示をした。


「たまたま会った人がストーカー化することもあるよ? 迷惑なのは分かってる。でも好きなの、わたし諦めないから! とか言われなくてよかったじゃん」


いやないよ。

というか諦めようよ。迷惑だよ。


何、それは。


「そんな安いドラマみたいなことないでしょ」


呆れて首を振ると、諏訪さんが至って普通に否定する。


「そう? あると思うけど」

「いや、諏訪さんにはあるかもしれないけど」


諏訪さんは無駄にかっこいいからな。適度に上品でちょっと下品で、賢くて悪い男な感じの華がある。


無駄に女たらしだし、話も上手いし。


でも、いつも品行方正な私と、いつも背中に注意警報な諏訪さんを一緒にしないで欲しい。


「意味不明なんだけど」

「何かあれだよ、たまたま見つけた鯛が惜しくなっちゃうんじゃないの?」

「ええ?」

「……うーん、でもやっぱりよく分かんないな」


とか言いながらあっさり自分を鯛にする辺り、どこまでも不遜な人だ。


諏訪さんらしいけど。
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