あなたに捧げる不機嫌な口付け
「もし本当にされたらむしろ嫌うけどね、私なら」


ドラマみたいな行動が素でできてしまうのも、迷惑なのは分かってると言いつつ実行する気の眼差しもおそらく、苦手にしかならないだろう。


「あなたを諦めませんってつまり、聞こえはいいけど、あなたが相手を嫌いになるか、相手に振られるかするのを諦めない、ってどうしても聞こえるんだよね」


そんなつもりはないに決まっているけど、聞こえてしまうんだから仕方ない。


粘着質な恋人なんて絶対にお断りだ。


「祐里恵はまた面白い自論を持ち出したなー」

「私が捻くれてるだけなのは分かってるけどね」


私は面倒臭くて捻くれていて手に負えない。


そんなことはとっくに分かっている。


損な役回りも気にしたことはない。必要以上の愛想を振りまくのは疲れるし。


「諏訪さんは諦めないとか言われたことある?」

「えー、まあ……いいじゃんこの話は」


普段より口数の少ない諏訪さんに鎌をかけたら、前を向いたまま困ったように笑われた。


……つまりはあると。


やけに実感こもってるなとか思ってたんだけど、さすが諏訪さん。


「……ねえ、祐里恵」

「何」


波乱万丈な人生を送っているらしい諏訪さんは、誤魔化すように私を覗き込んだ。


――なぜかおかしな微笑みを浮かべて。


「祐里恵はいつになったら、俺のこと名前で呼んでくれんの?」
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