あなたに捧げる不機嫌な口付け
『祐里恵、今日暇? お菓子あるよ』


それだけで行くと言わせる人を私は他に知らない。


面倒臭がりで人付き合いが悪くて無愛想で、と負の三拍子が揃っている私を、子どもの私を、恭介さんはいつでも的確にあしらった。


何度か呼ばれるようになって、月に二回が週に二回になり、今ではほとんど毎日電話がかかってくる。


恭介さんの家に行くために次第に放課後をあけるようになった、なんて言ったら絶対騒ぐから絶対教えないけど、案外楽しみな自分がいる。


恭介さんが私を呼び出す間隔が狭くなっていくのに比例して、キスを仕掛けてくる回数は増加していった。


グラフにしたら、きっと明らかに右上がりだろう。


『祐里恵、キスは好きでしょ』


恭介さんはいつも、私の反論をそんなふざけた言葉で覆す。


私は別にキス魔じゃないと声を大にして何度も言いたい。確かにキスは嫌いではないけれど。


キスが好きなのは、どう考えても恭介さんの方でしょ。風評被害はやめて欲しい。


……別に、嫌いではないけれど。
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