あなたに捧げる不機嫌な口付け
「え、ちょっ、祐里、恵……!?」


――恭介さんの腕を引っ張って、近づいた反動でその肩口に頭を押しつけて。


恥ずかしさのあまり、ものすごく赤い顔を隠してから。


「……た、だいま、恭介さん」


頑張って言ってみた。


「おかえり、祐里恵」


一瞬固まったくせにすぐさま復活して、そっと私を抱き締めた恭介さんが、ぐりぐり頭を押しつける私の髪を手ですいて耳にかけた。


「おー、真っ赤」

「うるさい馬鹿」

「可愛いよ?」

「見るな馬鹿」


何勝手に髪耳にかけてるの、馬鹿。


柄にもなく照れてしまったのは、私が一番分かっている。


鼻で笑いながらあっさり言うつもりだったのに、なぜか無性に恥ずかしくて上手く流せなかった。


頑張ってちゃんと目を見つめたのが多分失策だった。


絶対にへらへらしていると思ったのに、こちらが何だかどうしようもなくなるくらい、恭介さんはひどく優しい顔つきをしていたから。


……そんな人に向かって、ただいまって言う?


何の罰ゲームだ。何の苦行だ。


照れるに決まっている。
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