あなたに捧げる不機嫌な口付け
「……恭介さん、早くマフィン」

「もちろん。でもそのためには離れて欲しいかな」


含み笑いとともに、するりと熱い耳に触れてきた、無遠慮な指先を押し退ける。


勢いよく振り払う気にもなれなくて、へろへろと弱い力で押しやった。


ああもう、指まで熱い。


何とかしようとマフィンを持ち出してみたのは失敗だったらしい。

今離れたら顔が赤すぎて死ねる。


そんな当然のことにも気づかなかったなんて、思っているより、火照りのせいで頭が鈍っている。


くすくす、と。穏やかに、甘やかに、密やかに笑いをもらして私の手をさらった恭介さんは。


押し退けたもののふらつく体に支えが欲しくなって、やっぱりぎゅうぎゅう両手で恭介さんの片袖を握って離さない私に向かって、実に楽しげに笑った。


袖を掴まれていない方の手が、緩やかに何度も髪をすく。


ほのかに香る果物の香りはいつもと同じ、私が使っているシャンプーのものなのに、恭介さんのせいか、妙に甘い。


甘い香りと甘い雰囲気に、妙に艶めいた空間ができあがる。


不本意ながら、翻弄される。


「……ね、祐里恵」
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