あなたに捧げる不機嫌な口付け
思わず肩が跳ねた。


強引に誤魔化してはみたけど、目を細めたから、多分分かられてしまったかな。


その目に映るものも、恭介さんを動かす理由も、本当は明確なんだろう。


恭介さんはちゃんといつでも聡い。

私が嫌がるからぼかしているだけだ。


「……なんてな」


おどけて言う恭介さんに私は笑えなかった。


口調が崩れていて、顔付きが真剣で、半分は本気に見えたから。


慎重に言葉を選ぶ。


「…………ごめん、恭介さんは初めから知り合いに彼氏って認識されてる」


不肖する私が珍しく連絡を取るので、一時期友人たちに恭介さんとの関係を根掘り葉掘り聞かれた。


彼氏? と言われたのを否定も肯定もしないでおいたら、彼氏だという認識にいつの間にかなっていた。


「……いや、そうじゃなくて」

「ごめんね、面倒臭くて何となくそのままにしてたけど、ちゃんと否定しておくべきだっ」

「祐里恵」


言葉の量で押し切って何とか流そうとした私を遮って、恭介さんは静かに私を呼んだ。


それだけで何も言えなくなる。


「聞いてよ」

「っ」

「頼むから、ちゃんと聞いてよ、祐里恵」


恭介さんの眼差しは揺るがない。


頼むから、なんて、普段は私が警戒するから避ける言い回しを使ったのは、私がもう警戒しているからか。

それとも、警戒されてでもちゃんと言っておきたいからか。


きっと両方だ。
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