あなたに捧げる不機嫌な口付け
「俺が言いたいのはさ。俺はいつでも祐里恵の彼氏になりたいよってことだよ」

「……うん」

「誤魔化すのは俺に失礼だ」

「…………うん」

「さっきのはちょっと、あまりにもひどいんじゃないかなあと思うけどな」


そうだね、誤魔化すのは失礼だ。流そうとした私が悪い。


……だけど。


「うん。ごめん」

「ん」


……だけど。


この関係は遊びであれと初めに決めたのに、今さら覆そうとするのは、私に失礼だ。


ねえ、恭介さん。そうは、思わない?


「……それは、形だけでも彼氏になって風除けをくれるってことだよね」


疑問ではないのは、これ以上は止めて欲しいという意思表示。


約束を破らないでという無言のお願い。


「……まあ、形だけじゃない方が嬉しいけどね、俺は」

「はいはい」


恭介さんは言下に込めた威嚇を汲み取って、一旦引いてくれた。


私も倣っておどけておく。


「祐里恵の周りの人に彼氏だって認識されてるのは、俺としては嬉しいし?」


こういう駆け引きが上手いよね、と思う。ちゃんとおどけてみせる辺りが、私の性格を把握している。


「ねえ、祐里恵」

「ん?」


威嚇した後でももう一言だけなら大丈夫だという見極めも、今から何かを言うのだなときちんと示す顔つきも、私の性格を掴んでいる。


準備期間を設けて分かりやすく示せば、私は文句を言わない。


「クサいこと言うけどさ」

「うん」


恭介さんは直前に示した通り、もう一言だけ踏み込んだ。


「俺じゃ、駄目かな」
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