あなたに捧げる不機嫌な口付け
恭介さんは「今度買ったげるから」と実に軽く提案した。


「いらない」

「なんで何も贈らせてくれないのさー。貢ぐ金ならあるよ?」

「余計にいらない。貢ぐとか、どこから沸いてくるのそのお金」

「んー、どこからだろうね」


……ほら、また。


お菓子も欲しいものも何でも買うと言うくせに、あなたは心は貢いでくれない。


いつも曖昧に誤魔化す。


もしかしたら誤魔化しているつもりはないのかもしれないと勘ぐるほどに、自然にやるからたちが悪い。


私ばかりが思い知らされるような、胸に迫る感慨に逃げ出したくなるような、そんな答え。


「じゃあさ、俺に何か小物ちょうだい」

「なんで」


じゃあって何。じゃあって。


「俺が欲しいから」

「…………」


碌な答えになっていないと思う。


……マーキングをねだられても困る。


私に主張はないんだよ。


口紅とか、香水とか、恭介さんが決して飲もうとも飲んでいいよとも言わない甘めのベリー系ハーブティーの茶葉とか、そういうものたちを残していっている彼女さんたちもいるようだけど、そんなことはしたくない。


しなくていい。


だって、何かよすがを残さなければ覚えていてもらえないのなら、諦めてしまった方がまだしも楽だ。
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