あなたに捧げる不機嫌な口付け
「……じゃあ、これ」


渡したのは筆箱から取り出したシャーペンの芯で、ケースごと渡そうとしたら「勉強するとき困るじゃんか」と言われてしまった。


たったの一本を恭介さんはうやうやしく受け取って、唇を吊り上げる。


「祐里恵のこういうとこ、すげー好き」

「そう」


言ってろこのたらしめ。


ちょっとでも嬉しく思ったのが余計に悔しい。


……くそう、たらしめ。


「なくなってたでしょ」


メモ用紙と一緒に置かれているシャーペンが変わったのを見たのは、つい数日前のこと。


何やらメモをしていた恭介さんの手元でボキッと微妙に大きい音がして、しばらくうろうろしていたと思ったら、ボールペンになっていた。


……つまりはまあ、シャーペンの芯がなかったからボールペンで代用したと、そういうことだろう。


恭介さんが嬉しそうに淡く目を輝かせたけど。


すぐにはっとして隠すように瞬きしたから、怖がりな私は何も見なかったふりをして、曖昧に流した。
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