あなたに捧げる不機嫌な口付け
部屋を訪ねると、インターホンを鳴らしたにもかかわらず、恭介さんはいつもの気怠い出迎えをしなかった。


おかしいな。


再びの違和感に首を傾げつつ、鍵が開いているか確かめたらやっぱり閉まっていたので、大人しく待つ。


白い息をいくつ吐いただろうか。


寒さに鼻を赤くして、マフラーに顔を埋(うず)めながら待ったけど、全然出てくる気配がない。


電気はついている。

電話で呼ばれたんだから、中にいるのは間違いない。


……これは、入ってくるなということだ。


拒絶だ。


何かあったらしい恭介さんからの、普段通りの態度はきっと維持できないから、何も覚悟がないなら入ってくるな、という。


初めての拒絶は、別段私を傷つけず、慌てさせなかった。


そんなこと、私には知ったことではない。


今は、ただ。


持ってきてはいたものの、全然使う機会がなかった合鍵を初めて取り出して、少し手間取って差し込んで、回す。


がちゃり、張り詰めた静けさに、開錠の音は思いの外うるさく鳴った。
< 191 / 276 >

この作品をシェア

pagetop