あなたに捧げる不機嫌な口付け
暗いキッチンの電気をつけて、手慣れた手順で二人分のコーヒーを淹れた。


「はい」


恭介さんは差し出したコーヒーに目を遣るも、受け取ってはくれない。


仕方なく、ソファー前のローテーブルにコースターとマグカップを置く。


向かいに私の分を置いて、絨毯の上にソファーの端っこからクッションを持ってきた。

これはたまに恭介さんが座るから潰れ始めている古いクッションで、座っても怒られないだろう。


よし、とクッションに座って、熱いので冷ましながら飲んでいると。


もうすぐ飲み終わるところで恭介さんが動いた。


組んでいた足を下ろして、口をつけないままのコーヒーを置いて立ち上がる。


「どこ行くの」

「ふられた男は退散する」


別の相手を探すんだ、と、恭介さんは静かな表情で言った。


ふられたなんて、何を勝手に言っているのか。


そう、と私も静かなまま立ち上がる。


「馬鹿だね。恭介さんの家なんだから私が退散するに決まってるでしょ」


ここに、他の彼女でも誰でも呼べばいい。


私が役に立たないなら。
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