あなたに捧げる不機嫌な口付け
「いたらいい」

「なんで。もうコーヒーも飲み終わっちゃったし、恭介さんがいないのにここにいる意味はないでしょ」


私は恭介さんに会いに来たのだ。


こんな、こんな迷子みたいな瞳をしている気がして、心配で、恭介さんに会いに来たのだ。


リスクは考えた。

当然そろばんも弾いた。


私はどうなってもいいから、と言い切れるほど献身的にはなれないけど、近しいことを考えた。


それでも会おうと結論づけてここに来たのだから、恭介さんが言外に帰れと言うなら私は帰るべきだ。


自分の分のマグカップは洗って棚にしまった。


「コーヒーもう冷めちゃったけど、よかったら飲んで」


鞄を肩に下げて足早に玄関に向かう。


コートの前を合わせてローファーを履こうとして。


「祐里恵」

「ん?」


呼ばれた名に振り向くと、手を取られて押し倒された。


「っ、」


鞄が飛ぶ。


「い、った……!」
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