あなたに捧げる不機嫌な口付け
「……何かあった?」

「別に何も」


先ほどと同じ会話。


同じ鋭さ。


同じ、迷子の揺れる瞳。


「そう?」


そんなふうには見えないんだけど。


笑って恭介さんを腕の中に閉じ込めた。


そのまま明るい頭を掻き抱く。


掻き抱いて、そうと分かられたくなくて、今にも力を込めてしまいそうな衝動を必死に押し留めて軽く髪を崩せば、訝しげな目が、じゃれる手つきを物言いたげに問いかけた。


恭介さんはひどい人だ。


縋る希望を見せつけるくせに、本当に縋ることは許さない。


全然全然、優しくない。


「……ねえ、恭介さん」

「何?」

「私、愛されてるとか好かれてるとか自惚れてはいないよ」


何度も繰り返してきた前提を主張する。


思ってもみないことを自分に言い聞かせるのは、たまらなく胸を苦しめた。
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