あなたに捧げる不機嫌な口付け
「……キスしてもいい?」


恭介さんが無表情になって聞いた。


「好きにすれば」


判断を委ねれば、焦らすような長いキスが降ってきた。


両手は固定されている。


……私の思い違いだったらよかった。


勘違いとか思い上がりとかだったらよかった。


そうしたら、こんな意地は張らなかったのに。


『祐里恵、キスは好きでしょ』


いつかの恭介さんの声が蘇る。


そうだよ。好きだよ。だって恭介さんが近いから。


恭介さんが私を見ているって、私だけを見ているって思えるから。


「……恭介さん」


強張った唇を無理矢理動かして呼びかける。


「ん?」


気を緩めたら泣きそうで、目を伏せて力を込めた。


私が泣くわけにはいかない。そんな権利はない。


「この距離を詰める気が、あるの」

「ん? …………ない、けど?」


嗄れた声。

あいた沈黙。


「……そっか」


静かに答えた恭介さんに、さらに泣きたくなる。


私はあるよ。あるんだよ。


……この距離を詰めたいよ。


そして多分、恭介さんもそうでしょう?
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