あなたに捧げる不機嫌な口付け
別れるなんて言葉は私たちには似合わない。


だから、これはただの意地。


私は意地を張る。


頑なに意地を張って、恭介さんの家を出て、恭介さんの話し相手をやめる。

この曖昧な関係を終わらせる。


だって、条件を守れないなんて、あまりに駄目だろう。


ルールを決めたなら、守らなければ意味がない。


これ以上囲まれる前に曖昧な関係を手放して白紙に戻せば、今ならまだ間に合うはずだ。


蛾は夜道の明かりを太陽光と混同して集まる。


それはとても愚かに見える。


だけど、本当に太陽に向かって行ったら、どのみち全て焼け焦げて蒸発して消えてしまうのだ。


街灯で死ぬのと太陽光で死ぬのとは、おそらくそれほど大差がない。


……私の愚かしさも同じだろう。


このまま曖昧に続けて別れるのと、今別れるのとではきっと大差がない。


恭介さんの、たった一人になりたい。


だから離れる。たとえそれが、恭介さんを何より傷つけるのかもしれなくても。


大人になりたければ本当は流してしまうのがいいのかもしれない。そうするべきなのかもしれない。


だけど、それじゃあ私の中では大人になれないから。

約束事を守るのこそ、私が思う大人だから。


私の行動は端から見ればまるで戯れだけど。


……ごめんね、私は真剣なんだ。


戯れなんかじゃ、ない。
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