あなたに捧げる不機嫌な口付け
「……戻そうかな……」

「ご自由にどうぞ」


さっさと歩き出すと、隣に並ばれる。


一応私の家に帰る方向に進んだんだけど、家の場所は教えたくないし、このままだとすぐ家に着いてしまうし、仕方なくまた立ち止まった。


「で、本当に今さら何の用、諏訪さん」

「……っ」


呼び名が名前ではないことに耐えるように眉根を寄せた。


私の問いかけには答えずに、諏訪さんも質問を投げる。


「何で電話繋がんないの」

「登録してるの以外受けつけない設定にしてるから」


代金が跳ね上がるから、最近は留守電も設定していない。


「……連絡先消したの? 着拒じゃなくて?」

「うん」


淡々と頷く。


「そこまで俺が嫌いだった?」

「いいえ」

「じゃあなんで、」


淡々と否定すると、訝しげで、それでいて焦っているような、切羽詰まって言い募るような早口になった諏訪さんの言葉を遮る。


「なんでかな。消さないといけないと思ったから」
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