あなたに捧げる不機嫌な口付け
――もう嫌だ。


え、と思う間もなく諏訪さんがもう一度言った。


「もう、嫌だ……!」


混乱しながら後ずさると、腕を掴まれる。


ひどく熱いのが服越しに分かった。


「何言って」

「そういうのはあのとき言うべきだったんだ。諦める覚悟なんかいつまでたってもできてないし、これからだってできないからな」


早口で遮った諏訪さんが、強くこちらを見据える。


手が熱い。ひどく熱い。


でも、痛くはない。引っ張られてもいない。


一瞬込められた力は、はっと眉をしかめた諏訪さんがすぐに緩めた。


……こんなときでさえ、私の我がままに最大限合わせてくる。譲歩する。


「諦めてよ。仕方ないんだよ」

「仕方なくない」


うるさい心臓を押さえたくて、静かに息を吐き出した。


「……そういうの嫌いだって、私、前に言わなかった?」


覚えているに決まっている。


覚えていて言ったに違いないのだ、この人は。


……手は痛くないようにするくせに。


「言った。言ったよ。ごめん、諦められなかった」


――全然、駄目だった。
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