あなたに捧げる不機嫌な口付け
馬鹿だなあ、とちょっと心が浮く。


何でもいいんだよ。


口調とか条件とかは何でもいいから、諏訪さんが望んでくれるなら、言葉があればいい。

ただ頷いてそばにいたい。


馬鹿だなあ、とちょっと苦笑する。


絆したいのだなと分かった。

どう思ってくれたのか伝わったから、いい。充分だ。


……やり直そう。


あの日、無茶な条件をつけた私に言い訳はいらなくなった。


多分、ようやく二人ともが同じ方向を向いた。


大丈夫。これなら大丈夫。


そういえば、と懐かしく思い返す。

ごめんって、前にも言われた。


『ごめん。……ごめん祐里恵、やだ』


コーヒーミルを二人で買いに行ったとき。


あのときもそうだった。


……私は何というか、諏訪さんのごめんに弱いらしい。


馬鹿だなあ、と思った。


「諏訪さん」


静かに名前を呼ぶと、はっと顔を上げる。


「コーヒーが飲めるなら、充分な利益だよ」


ねえ。


私、全然可愛いことも言えないし、素直にもなれないけど。

そんな私でもいいなら。


「また、コーヒー淹れてくれる?」

「ん」


優しい顔で、諏訪さんがくしゃりと笑った。
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