あなたに捧げる不機嫌な口付け
苦く黙り込むと、慌てた諏訪さんがマグカップを回収しようとした。


「ごめん紅茶と間違えた!」


え。


「甘いの駄目だろ、飲まなくていいから……!」

「もったいないからいいよ」


そうだ。諏訪さんは紅茶になら気まぐれに砂糖を入れる人だった。


「もう一杯淹れていい?」

「ん、ごめん。俺がやる」

「いいよ、私が淹れる。す、わさんも飲む?」


諏訪さんはこれだけ条件を揃えているのに、私がまだ、何一つ条件を満たしていない。名前さえ。


「ねえ、祐里恵」


飲み終わって空のマグカップを私に渡しながら、何の気なしに呼びかけられる。


見つめた先に、ひどく強張った顔があった。


「……この距離を詰める気は、あるの」


喉が詰まった。


くしゃりと諏訪さんの顔が歪む。


「戻ってくるだけ戻ってきて終わり? 俺が呼んだから? やめてよ。……辛くなる」


切なさを増した瞳に映る私が揺れている。


……その通りだ。


諏訪さんに呼ばれたから戻ってきて、それで終わりでいいのか。一件落着か。

甘えて諏訪さんなんて呼んでいていいのか。

お菓子をもらって、コーヒーまで飲んで。


違う。絶対に違う。


だって、私、すきなのに。
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