あなたに捧げる不機嫌な口付け
唇を噛みしめる。


無意識に声が泣きそうに歪んだのが悔しかった。


「……な、にを」

「変わらないでしょう。変わらなかったでしょう、何も」


『私ね。恭介さんが、好きだよ』


ちゃんと好きって言ったのに。

ちゃんとずっと恭介さんって呼んでたのに。


何も変わらなかった。


変えたいと思ったときに、変えたくて頑張ったときに、あの曖昧な関係を変えさせてはくれなかった。


この人こそが、私の好意を先に誤魔化したんじゃないか。


約束を守れと茶化して強要したんじゃないか。


「違う。変わるよ」


すぐさまの否定は力強かった。


「あれは変えようとしたら約束が反故になるからだろ。俺は変えようとしたし、祐里恵はそれを断った。祐里恵が変えようとしたときは俺が断った。それだけのことだ」

「そうだね」


早口の正論は、ひどく正しい。


「祐里恵は正しい判断をしたよ。状況が許さなかったんだよ。仕方ないなんて言わないけど、でも、あれは前のことだ。今のことじゃない」


その通りだ。


選び抜かれた言葉が全て正しくて、そのくせ優しくて、子どもな私を醜くする。


やっぱり諏訪さんは、ちゃんと大人なのだろう。
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