あなたに捧げる不機嫌な口付け
「全然駄目じゃない」


不安そうな祐里恵に即答して、じゃあ恭介さんって呼んで、と言ったら、ぐっと詰まった。


理由を話したからか、普段通りの呼び方さえ照れるらしかった。


「……きょ、……」


真っ黒な瞳が揺れている。


泣きそうに、ぬれている。


「きょうす、け、さん」


嗄れて聞き取りにくい声を大事に耳にして、そうっと名前を呼んだ。


「祐里恵」


なに、といじましく揺れる声音。


「好きだよ」


その指通りのいい髪をすいて、視線の高さを合わせて頭を固定する。


「……馬鹿だね、恭介さん」


祐里恵は泣きそうに笑った。


「そんなこと」


ずっとずっと、知ってる。


「ちゃんと知ってるよ。大丈夫だよ」

「うん。でも言いたかったから」


おどけて笑ってみせる祐里恵に、ほんの少し笑い返す。


「そう言うのも何回めなの」

「何回でも」


何回でも好きだよって言うから、何回でも好きだよって返して欲しい。


真っ赤な鼻を鳴らして、祐里恵が声を上げて笑った。
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