あなたに捧げる不機嫌な口付け



「それで、社会人と女子高生で悪いんだけど」


恭介さんの声がすっと変わる。


真面目な顔つきと声に、嫌な予感がした。


逃げ腰になったけど、腕を捕まえられて逃げられない。


「恭介さん、待って……!」

「待たない」

「待って、だって……!」

「待たない」

「……だって、」


待ってとだってを繰り返した。


間違っても嫌だなんて言わないように真っ白な頭で必死に考えながら、言い訳を繰り返す。


「だって私たちは、女子高生と社会人で」

「うん。でも好きだよ」

「大人と、子どもで」


やっぱり恭介さんが、うんと頷く。


「でも、好きだよ」

「年の差だって、七つもあるのに」

「うん。でも、好きだよ。好きなんだよ」


責める声色ではなかった。


「ねえ、祐里恵」


ただ断定して、思っていることをその通りに口にしているような、すとんと真っ直ぐで確かな、落ち着いた声色だった。


「そのうち二人とも、社会人と社会人になるよ。あと二年もしたら大学生と社会人だよ」


そうしたら嫌じゃないだろ。


「二年なんてすぐだよ」
< 231 / 276 >

この作品をシェア

pagetop