あなたに捧げる不機嫌な口付け
「……うん」


頷いてみたけど、全然納得できていないのは丸わかりだろう。


あやすみたいに手で髪をすかれる。


恭介さんにとっては二年なんてすぐかもしれないけど、私にとってはすぐじゃない。


二年なんて、季節が八回も変わらなきゃいけないのに。

日付で数えたらもっとだ。七百三十日は長すぎる。


「……祐里恵」


恭介さんはそっと優しく笑った。


「祐里恵は大人と子どもって気にするけど。そのうち二人とも、大人と大人になるよ」


大丈夫だよ。


おじいちゃんとおばあちゃんになったら、それこそ年の差なんて気にしなくなるよ、と笑う恭介さんに、気が早すぎだ、と思った。


どれだけ一緒にいる気なの。せめておじさんとおばさんになったら、くらいは一拍置いて欲しい。


けれど、そんな気の早さはきっと気遣いだって、ちゃんと分かっていた。


「ごめん、気にしてるのは、俺が子どもは嫌いだって言ったからだろ」


思わずぱっと顔を上げる。


……初めて会ったときからずっと引きずってたこと、気づいてたんだ。


「ごめん。あのときの俺が馬鹿だっただけだ。ごめん」


恭介さんは静かに頭を下げただけで、祐里恵は大人だと思ってる、なんて言わなかった。

慰めなかった。


私はずっと、この人の、そういう聡いところが好きだった。
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