あなたに捧げる不機嫌な口付け
恭介さんが好き。

好き。


込めた思いが重なる唇を通して伝わればいい。

この熱から、きっと伝わってるって信じてる。


「祐里恵」


舌たるい呼び声が耳障りよく聞こえ始めた今は、秘密めいた私たちの関係は、ほんの少しずつ変化して。

他の女性のマーキングみたいな女性用の小物が部屋から消えて、底の擦りきれたローファーは大人びた踵の高いブーツになって。

放課後は毎日のようにこの部屋を訪れて。


呼び名が変わった。

恭介さんの外見が変わった。

関係が変わった。


頭を支える手に力を込めて拘束する恭介さんに、思う。


(別に逃げないのに)


恭介さんがキスしたいなら協力するのに。


これ見よがしに流し目を寄越すから、荒い息で背伸びをした。


……女子高生と大人なんて、あまりいい顔をされないかもしれない。


でも、この関係が、私たちにしか分からない理由で構わないから、叶うならずっと続けばいい。


――あなたに捧げるは、不機嫌な口付け。


改めてしたキスは、やっぱり煙草の味がほとんどしなくて。


もしかして、初めの頃に提示した好きな人の条件を本当に全部守るつもりかと、甘ったるいことを考えた。




Fin.
< 235 / 276 >

この作品をシェア

pagetop