あなたに捧げる不機嫌な口付け
「恭介さんは私の彼氏。いい?」

「う、うん」

「だけど、いちいち知り合いに聞かれて返事するのは嫌だから、こっちを通ってるの」


二人でいるのに話の腰を折られるのは嫌だからね。


カップルだったら大抵みんな、無粋な真似はできないよ! ってそっとしておいてくれるんだけど、カップルに見えるかが問題なのだ。


外で手なんか繋がないし、年の差もあってカップルだって分かりやすくはないだろうし、誰か知り合いに会ったら十中八九話しかけられてしまうだろう。


話しかけても大丈夫な雰囲気に見えるんだから、それは仕方ない。


「恭介さんといるのを見られるのが嫌だったんじゃなくて、恭介さんといるのにあまり話せないのが嫌だったの」


これだけ言葉を尽くしたんだから伝わって欲しい。


「祐里恵」

「うん」


あのさあ、と言い淀む恭介さんに、一瞬本気で心配になる。


これだけ言ったんだから、私の気持ちくらいちゃんと分かって、


「なんで今日そんな甘いこと言うの」


なかった。


ひどい。……いやむしろ、なんで分からないの。


「ねえ恭介さん、理由なんてどう考えても分かるでしょ。馬鹿なの」

「ねえそれ理不尽、すごい理不尽!」


全然分かんないわけじゃないけど、とか何とか、困ったような顔をする。


それなら、順を追って答え合わせをしようか。
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