あなたに捧げる不機嫌な口付け
思い出したみたいに付け足した諏訪さんに、とても心配になった。


この人の中で個人情報はかなり軽んじられているらしい。不安だ。


「いいでしょ?」


本当はあまりよくないけど、教えない方が疲れそうではあった。


「……分かった。誰かに教えないでくれるなら」


教えない教えない、とまたもや適当さが滲む返事を寄越すので、一応釘を刺す。


「又聞きしたなんて言われたら、その人も諏訪さんも連絡先消すから」


念には念を入れて、が信条の私には当然なんだけど、諏訪さんは苦笑した。


「信用ないなあ、俺」

「初対面だから諦めて」


会ってすぐに信じるのは無理だ。


突き放したつもりだったのに、諏訪さんは至って前向きに捉えたらしくて、表情がぱっと明るくなった。


「それはそのうち信用してくれるってこと?」

「さあ、どうかな。でも順調に進めばそうなんじゃないの……って、ここまででいい」


ありがとう、と、足を止めて宣言する。


意味は帰って、だ。


「いや、送るよ?」

「家知られたくないし、もう近いから大丈夫」


家はこのまま真っすぐ歩いてすぐのところにある。


これ以上来られたらお礼を言いたくなくなるから、付き添いはいらない。


ありがとう、ともう一度言うと、把握してくれたようで。


「りょーかい了解、分かったからそんな威嚇しないで」

「…………」


威嚇してない。
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