あなたに捧げる不機嫌な口付け
「……ええと、その、まさか祐里恵が、好きって言ってくれるとは思わなくて……」


ああもうほら。絶対そうだと思った……!


嫌な予感が当たってしまった。


あのですね、とか何とか重ねようとしたところを遮る。


「へえ? それで?」

「…………その、ごめん、なさい」


ごめん、になさい、がつくときは、本気で謝っているときだ。


単語が長くなると改まっている感じがあって、恭介さん的に敬意が高くなるらしい。


照れた解説が脳裏に蘇って、……可愛いなあ、なんて、怒っているはずなのに怒りがしぼんでしまった。


言い淀むんだから、大した問題じゃない。

本当にどうしようもないと、泣きつくか黙秘する人なのだ、はた迷惑なことに。


「……私は恭介さんが好きだけど、普段はあんまり言えてないから、たまには素直になろうと思ったんだよ」


恭介さんが大事だ、なんて、あんまり言わないから。

好きだなんて言葉は、意地を張って音にのせないから。


可愛げがあるつもりだったのに、結果、全然可愛くなくなってしまった。


おかしい。どうしてこうなったんだろう。


やっぱり私に可愛さは似合わないらしい。


可愛くなんて、なれない。
< 240 / 276 >

この作品をシェア

pagetop