あなたに捧げる不機嫌な口付け
「でもさ」

「でもじゃな」

「お似合いですねって言われるんだよ。絶対」


リップサービスだとしてもさ、やっぱ嬉しいよな。


「…………」


恭介さんのけじめなのか何なのか、お金を出すと宣言した日は、絶対に私をレジに付き添わせない。頑として一人で払う。


だから知らなかった。知っているはずもなかった。


一緒に出かける度、周囲の視線を気にしてばかりいる私に、恭介さんが気づいていることなんか。


「……私別に綺麗じゃないし」

「うん? 綺麗だよ、祐里恵は」


同い年の美人に見えるよ。


「…………」


今日は私を甘やかす日なのだろうか。

大人しく甘やかされておいた方がいいのだろうか。


「どうした?」


そういえば、私を覗き込む恭介さんの声が、通常の倍は甘ったるい気がする。


何かを言おうとして結局思いつかなくて、恭介さんをそのまま店内に引っ張った。


「で、ビターチョコが苦手で幼稚な味覚を気にしてる恭介さんはどれがいいの」


強気に告げると、「えー……」と何やら不満そうだ。


「俺気にしてないし……」


知るもんか。そういうことにしておいて欲しい。
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