あなたに捧げる不機嫌な口付け
コートを畳み、肩掛けの鞄を定位置に置いて、ソファーに腰を下ろす。


制服のブレザーのボタンを外して、襟とリボンを緩めて首元を楽にした私に、恭介さんは異様に朗らかに、それはそれはにっこり笑って。


くつろぐ私の冷たい手のひらを温めるように握り込んで、慣れたように隣を陣取った。


「……近いんだけど。離れて」

「いや、遠いと手繋げないし」


へらりと笑った恭介さんは意味不明な反論をして、さらに距離を詰める。


……そこでなんで私を抱き寄せるんですか、彼氏さん。


「手繋げなくていいし近づかなくていいよ。離れて」


私は結構本気で再三お断りしたんだけど、「こんな指先まで冷えきってるのに何言ってんの」とか何とか言って離してくれない。

相変わらず屁理屈というか何というか、よく分からないことを……。


まあ、恭介さんの部屋は暖房の設定温度高いし、実際、恭介さんの手って温かいし、しばらくしたら合格点の体温に戻って離してもらえるだろう。

駄目だったらコーヒーでも飲もうって誘って、私が淹れれば離れられるし。今はいいや、放置放置。


さっさと達観して無反応、そのうえ平熱に戻った私の手を弄り飽きたのか、恭介さんは五分後には大人しくなっていた。


私はといえば、コーヒーのことを考えていたら本当に飲みたくなってきたので、計画通りコーヒーを淹れている。
< 249 / 276 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop