あなたに捧げる不機嫌な口付け
カップを温めていたお湯を捨てて、ペーパーフィルターをセットしたドリッパーを縁にのせる。


いつもドリッパーはマグカップの縁の上にのるタイプ。


マグカップの中に入る型だとたくさんお湯を注いだときにドリッパーにお湯がずっと触れることになるので、濃くなるというか苦くなるというか、本来の美味しさとは変わってしまう気がする。


かといって、注ぐお湯の量を調整してほんの少しにするのも手間だし、たくさん飲みたいときもあるし。

自分で量を好きに変えられる方がいい。


「祐里恵」


コーヒーミル―から挽いた豆を移しながら、恭介さんを流し見た。


「うん?」

「今日は何の日でしょう」

「ああ、お返しくれるの? ありがとう」

「どういたしまして、って質問に答えようよ、まずは」


コーヒーを淹れる傍ら、恭介さんの方を見ないで返事をしてみた。


「ホワイトデーだね」

「うん……もういいよ何か……」


諦めた恭介さんが拗ねて唇を尖らせた。


うん、ごめんね。

でも、今日は何の日でしょうって言われたら、誰だって何が言いたいのか分かってしまうと思う。
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