あなたに捧げる不機嫌な口付け
「美味しい」


ほう、と吐息を吐いて熱さを逃してやりながら、恭介さんが呟いた。


「そう。ありがとう」


お礼や感想を欠かさない恭介さんは本当に律儀だなあと思う。


黒いマグカップが恭介さんで、薄い青のものが私のマグカップ。デザインは同じで、色で区別をつけている。


長い指がカップを傾けるのを横目で見つつ、私も一口大事に飲み下す。


マグカップをお揃いにしようなんて乙女思考全開なことを提案したのは、言わずもがな恭介さんだ。


私はお互いに好きなものを使えばいいと思ったんだけど、俺が支払うからどうしてもお揃いにしたいと泣きつかれた。


そんなに言うのなら。別に特別気に入った柄があるわけじゃないし。恭介さんのお金だし。

とまあこんな感じで私が折れた。


それぞれ選んで、話し合って恭介さんお勧めのものにしたまでは問題なかった。


どの色にするか悩む段階になって急に、「祐里恵のマグカップはピンクにしよう」とか狂言し出したので、全力で阻止。


店頭で渋る恭介さんを流して、さっさと店員さんを呼んだのだった。


最終的に、私が払うよと脅したら効果てき面で、自分が買うとあらかじめ言っていた恭介さんは、渋々の体でお代を支払った。


結構いいものだったので、アルバイトもしていない学生にはだいぶ高くて、払うのは正直きつかったから、払ってくれてこっそり安心した。


……もし本当に払うことになったら意地でも払ったけど。
< 252 / 276 >

この作品をシェア

pagetop