あなたに捧げる不機嫌な口付け
「で、祐里恵に聞きたいんだけど」

「うん」


軽い声が私を回想から引き戻す。


恭介さんは私の顎に手をかけて上向かせて、妖しく笑った。


「食事にする? 買い物にする? それともお・れ?」


ばちーん、とウインクが飛んできた。妙に様になっているのが悔しい。


恭介さんが私の顎に手を添えるときは、大抵、からかいたいときだ。


普通顎を掴んだらキスをするものだと思うけど、恭介さんはそんなロマンチックな仕方でキスをしてくれない。


キスをするときは、恭介さんは私を囲う方に手を使う。


私の両手を押さえて逃げ場をなくすとか、壁に押さえて両脇を固めるとか、床に押し倒すとか、髪をすくついでに頭を固定するとか。


……なんだか恭介さんがド変態な気がしてきたけど、まあいいや。


私は逃げないと何度言っても押さえるのをやめないのは、自分も逃げないと態度で示しているのだということにしよう。
< 254 / 276 >

この作品をシェア

pagetop