あなたに捧げる不機嫌な口付け
「どうする?」


にやりと口角を上げた恭介さんに、あくまで冷静に笑って、至極真面目に言ってみた。


「恭介さ」

「うんレストラン行こうな、ってええ!? 俺!?」


聞かれたから答えたのに、何が不満なのか驚いている。しかも遮られた。


『食事にする? 買い物にする? それともお・れ?』なんて、これを狙ってのふりじゃなかったのだろうか。

ここでご飯とか買い物とかを選んだらむしろ、相当ひんしゅく買わない?


絶対そういういたずらだと思ったのに、深読みし過ぎて外れたらしい。


「駄目?」


甘えるように見上げると、ぐっと小さく喉が鳴った。


いつもの余裕はどうしたのか。

わたわたしてる恭介さんなんて滅多にない。超絶面白い。


「駄目じゃないけど」


そこで一旦口を閉じる。


言い淀んで口唇を開け閉めして、目を泳がせ、あー……うああ、なんて奇声を上げつつ頭をかいて。

流していた視線を、おそるおそるこちらに寄越した。


「…………じゃあ、さ。えっと」

「恭介さん、の一日をちょうだい」


首を振って訂正すると、恭介さんがちょっと驚いてから照れた顔で安堵の息を吐いた。


「……いいけどさ。いいけど、俺馬鹿みたいなんだけど……」

「遮ったのはそっち」


なんだよ期待しちゃったじゃんか、なんて言われても困る。
< 255 / 276 >

この作品をシェア

pagetop