あなたに捧げる不機嫌な口付け
飲み終わったカップを提げて、私はぶーぶー唇を尖らせる恭介さんの隣を早々に引き上げた。


「で、一日って具体的に何するの?」

「……のんびり?」


全然具体的じゃないなこれ。ええと、どうしようか。


私としては、恭介さんと一緒に一日過ごせたら楽しいかな、くらいの安易な考えだった。


いつも会うの午後からだし、とかしか……ああええと、あれだ。


「午前中は恭介さんの家でのんびりして」

「うん」


絞り出した案は一応却下されなかった。よし午後も捻り出せ、私。


「午後からはどこかお店行ってもいいし、映画でもいいし、とりあえずあまり遠出はしないけど外出する方向で」

「うん」


ええと、あとは。家出て帰って来て、夜で、と、なれば。


「うーん……泊まる?」


とかだろうか。無難に。


「…………えっと、どこに?」

「ここ。恭介さんの家」


他に泊まるところないでしょう。旅行じゃないんだし。


「……あの、つかぬことをお聞きしますが」


何だか怪しい雰囲気で挙手をした恭介さんが、どこか戸惑っている。


「……何」

「それは祐里恵的にどういう意味ですか」

「私的に?」


質問の意図が分からなくて、とりあえず聞き返した私に、恭介さんはすごく困った顔をした。
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