あなたに捧げる不機嫌な口付け
自力で分かって欲しかったらしい。

ごめん。分からなかったので説明を求む。


「いや、あの」


説明しにくそうな恭介さん。そんなに恨めしげに見られても、私にはどうしようもないから諦めて欲しい。


「……説明できないことを言わないでくれるかな」


呆れた眼差しを投げると、不平たっぷりに唇を尖らせた。


「じゃあ言うけど!」

「うん」

「祐里恵の言葉選びだと意味深って気づいてお願いだから!!」


は? え、なに、なんて言ったこの人は、意味深、意味深、……意味し、


「ちが、ちょっと何言って……!」


焦って否定したけど、返ってきたのは拗ねて素っ気ない責任転嫁。


「言っとくけど言えって言ったのは祐里恵だからな。俺謝らないからな」

「いや、うん。そうなんだけど……!」


そうじゃなくて。


「恭介さんの隣は結構居心地がいいから、だから」


焦って言い募った私に、えっ、わ、うわあ、と大げさに騒ぎながら恭介さんが立ち上がった。


「祐里恵が俺のこと好きって言った……!」

「なっ」


分かってる、と言うようにおどけてみせたから、立ち上がりつつ離れてくれた背中は追わない。


……そっか。逃げていいよって言ってくれてるのか。


私もそれにのって逃げ場を作る。


「言ってないよ」

「言ったよー」


伸ばされた語尾は、私のための時間稼ぎ。キッチンに向かったのは、私が少しでも気を張らなくていいように。


深読みだなんて思わない、だって恭介さんだ。


こういうところがいいなあ、と思った。
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