あなたに捧げる不機嫌な口付け
私の分のマグカップもさらっていって、ついでに洗ってくれている恭介さんを追いかける。


「ありがと」

「はいよ」


手際よく拭き始めたので、せめてもと私は拭き終わったカップを受け取った。


食器棚に手早く並べて、恭介さんの手を引く。


「どうした?」

「うん。あの」


ソファーの元いた位置に座る。今度は私がどんどん間を詰めた。


「さっきの計画でいい?」

「ん? いいんじゃないの」


言いながら恭介さんはさりげなく手を繋いだ。


弱気な私を笑い飛ばす気はないようだった。


「そっか」

「ん」


肩に預けた頭に恭介さんの頭が触れる。髪が混ざった。


多分、聡い恭介さんのことだ。気づいている。


私がバレンタインにチョコを渡したのも、ホワイトデーに何かを求めたのも、一番初めはお互いばらばらに過ごしたからだ。


初めて会ったのは晩秋と初冬の間みたいな日だった。


まる一年がすでに経った今、私はむしろ一年分の時間を取り戻す勢いで随分甘えるようになった。


恭介さんは変態で馬鹿でアホだけど、きちんと大人だ。


距離を詰めたい私に、ツンデレめ、と笑って一緒に付き合ってくれている。


「祐里恵」

「うん?」


くっ付けていた頭だけを一旦離して、そっと振り向く。


軽く手を引かれた。


そして、お決まりのように、私を押さえた恭介さんはキスをした。
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