あなたに捧げる不機嫌な口付け
「染み抜き面倒臭いから。料理するときはつける」

「へえ、何か意外」


さらりと何でもないことのように言うものだから、びっくりして瞬きをしたら、渋面をした恭介さんは、頬を引きつらせながら質問した。


「……何、裕里恵の中の俺のイメージってどんななの。そんな駄目駄目なやつだって思われてんの? 俺」

「まあそうだよね」


うん、と素直に頷いたら、頭が痛そうな顔をされた。


……お味噌汁の香りがするけど、ご飯はまだだろうか。


しばらくしてようやくショックから立ち直った恭介さんは、緑のエプロンを翻しながらキッチンに戻った。


「もうちょっとしたらできるよ」

「じゃあお皿出すね」


言いつつ立ち上がると、鍋の向こうからお礼が返ってくる。


あとよそっていないのはお味噌汁だけだ。ええと、お味噌汁を入れるお椀はどれかな、と。


食器棚を見渡すと、漆塗りのお椀があったからおそらくこれだろう。


「はい」

「ありがと」


渡すついでに具材を覗き込む。


カブの白と緑の中に油揚げは見受けられなかった。リクエストはあるかと聞かれて、苦手だと伝えたのを忘れないでくれたらしい。


朝は軽めとも伝えておいたので、量も控えめ。


テーブルに運ぶのを手伝って、整った見た目に少しばかり悔しさを覚える。


……料理が上手なんて、個人的にポイント高いんだけどどうしてくれようか。
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