あなたに捧げる不機嫌な口付け
「お待たせ」

「いや、大丈夫」


恭介さんが座るのを待って、私も席に着く。


「いただきます」

「どーぞ」


見守る視線に若干居心地が悪い。


味が心配なんだろう。凝視されるとものすごく食べにくいんだけど、まあ仕方ない。


「どう? どう!?」

「……まだちゃんと食べてない」

「早く食べてよ」

「食べるからそんなに見ないで」


やだ、とか言った恭介さんに促されて、急かされるままに箸を動かす。


「…………」

「どう?」

「……ええと」


意地悪をしてみようかとも一瞬思ったんだけど。


上げた視界の真ん中で揺れる、不安げかつ自慢げな瞳に、私は正直に観念した。


「美味しいんじゃないの。私は好き」


美味しい、だけでよかったのに余計な一言を付け足した私に、恭介さんはとても嬉しそうに笑って。


「それはよかった」


余計な一言を付け足すくらい動揺して、

いくら気を緩めているとはいえ無意識に動揺するくらい驚いて、

驚くくらい美味しかったのだと、私の態度から順に読み取って、恭介さんはゆっくり安堵した。
< 261 / 276 >

この作品をシェア

pagetop