あなたに捧げる不機嫌な口付け
ご飯を食べ終わって、食洗機に洗い物は任せる。


ごろごろするという宣言の通り、ソファーでくつろぐ私の隣を確保する恭介さん。


すごくニコニコしている。


「今日さー、あったかいよねー」


並んで一言目が天気の話題って何なんだ。


「……そうだね」


返事をしないのもなあと思って頷く。


「うん」


喉を鳴らした恭介さんは猫のごとく私の腕にじゃれた。


その顔があんまり幸せそうで、なんというか、ちょっと、なんというか。


「祐里恵」

「うん」

「祐里恵」


恭介さんは舌足らずに私を呼んだ。


見つめてくる鳶色は、相変わらず綺麗だ。


「好きだよ」

「……うん」


いきなり何を言うのかと、思った。


ふわふわ私の名前を何度も呼んで、左腕を占領する。


……大事にしようと思った。


体育座りみたいに小さく畳んだ長い脚も、丸めた広い背中も、くすぐったい明るい茶髪も。


大事にしたくて、大切で、とても愛しかった。
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