あなたに捧げる不機嫌な口付け
「物事を円滑に進めたいとき、相手の弱点と同じくらいの弱点を教えるのは確かに取引の基本だよ。対等になるのが大事だから。でも俺は取引なんかしてない」


祐里恵と、対等でありたいとは思ってるけど。


「……うん」


知ってて欲しいけど、と、前置いて。


「全部が全部、考えて動いてるわけじゃないよ。なんにも考えないで動くこともあるよ、祐里恵に対しては」


好きだなーって思ったら、抱きしめたいしキスがしたいし、ずっと一緒にいたいよ。


おどけて抱きしめる仕草をしてみせる。


恭介さんが計算高いのも聡いのも分かりきった長所だ。


そんな周知の事実を引き合いに出すほどに、私の物分かりは悪いらしい。


恭介さんは私が落ち着くのを待って、静かに呟いた。


「そんなものだよ、みんな」

「……そんなものって」

「案外感情と行動は結びついてるものだよ」


少なくとも、俺が好きだって言うときは、好きだなって思っただけのときだよ。


朗らかに笑って私を覗き込む恭介さんに、ふわりと心が浮く。


……うん。そうだね。


「今はね、朝から裕里恵に会えるっていいなって思ってさ、幸せを噛みしめてました」


……笑顔が可愛いとかない。断じてないったらない。
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