あなたに捧げる不機嫌な口付け
連絡を入れて、しばらくして待ち合わせ場所に到着。


諏訪さんはまだ来ていないようだった。


……何のために十五分前に連絡させたんだ。


てっきりいるものだと思っていたから、拍子抜けする。


私だけ焦って来たみたいじゃないか。


「待った?」


何度目かの時計の確認をしていると、諏訪さんはようやく現れた。


遅いって文句をつけようかとも思ったけど、そうすると私が諏訪さんを待ち望んでいたみたいな不本意なことになってしまう。


努めて無表情を心がける。


「別に」

「冷たいなー、そこは待ってないって言ってよ」

「嫌」


むしろもう少しで帰るところだったよ、私は。


溜め息を吐いて歩き始める。


隣を歩きつつ、いまだ納得していないような諏訪さんに提案してみた。


「……じゃあ、もう一度どうぞ」


大丈夫待ってないよって言うかはともかく、少なくとも冷たい反応は返さないようにしようじゃないか。


時間を潰すために話題を広げたんだけど、私が諏訪さんをちらりと見たのに気づかない。


前を向いたままで、あっさり流される。


「え、やり直すの? いいよ、次のときで」


次はあるのだろうか。


「暇なら来てくれるんでしょ?」


一瞬軽口が止まると、今度こそ振り返って確認されたけど。


……ああ、これは。
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