あなたに捧げる不機嫌な口付け
「……そうだね」


これは、どこかで間違ったらしい。


完全にあちらのペースで、よく分からないけどなぜか外堀を埋められている。


私はどうしてか、外堀を埋めて逃げ道を塞がないとすり抜けるやつだと思われてしまったらしい。


でも、諏訪さんは外堀を埋めていくタイプには見えなかったのに。

だから面倒臭くないかなと思ったのに。


すり抜けさせたくないと思われるほど、何か目立つことをしたつもりはなかった。


何かを望まれるほど、諏訪さんを満足させたつもりはなかった。


でも。


「呼ぶから、暇なときは来てね?」


でもおそらく、念押しまでもらってしまったのは、そういうことだ。


「……時間があれば、ね」


時間がないから行けない、って逃げ道が欲しくて足掻いたら。


「待ってる」


……にっこり笑って塞がれてしまった。


ああ、もう。逃げられないなんて聞いてない。


えーと、慌てるな間違えるな落ち着け私、これは当ててみろって話じゃない。


黙るのは悪手、私予定あいてないから、とか教えるのも駄目、……面倒臭いな、もう!


でも、こういうやり取りを楽しんでいるのは事実だし、諏訪さんも私が楽しめると知っているから投げている。


よし。
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