あなたに捧げる不機嫌な口付け

お前なんか好きじゃないよ。

臭い臭いと騒いでいた私が、やっと煙草の匂いに慣れた頃のこと。


恭介さんはいつものごとく私の髪を触る。


手ぐしで梳きながら、彼は唐突に言った。


「ねえ、祐里恵」

「何」

「キス以上のこと、してもいい?」


「……は?」


キスイジョウノコトシテモイイ?


……キス、以上のこと。


何を言われたのか分からなくて、

だけどどこか期待したように視線を上げて、


その先の真顔に慄いた。


俯いて黙る私に恭介さんが呼びかける。


「祐里恵」

「…………」


戸惑っているうちに彼の大きな手は私のシャツのボタンだ。


慌てて物騒なそれを払い落とす。


「……訴えるよこの変態」


はだけた前を掻き止めて、思い切り睨みつければ。え、と目を見張った憎らしい人。


「初めて?」


何か反応が想像と違う、とか何とか失礼にも呟いた。


頷くのも気が引けて、強情に顎を突き出す。


「何。生娘はお気に召さないの?」


つまりは、初めてだ、ということ。


恭介さんは警戒する癖に両手のひらを握り締める私に苦笑して、ほんの少し距離を取った。


「でもくれないんだろ?」
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